ドレスは絹のジョーゼッ卜やシフォンでつくられ、丈は足首と膝の中くらい。体の線に軽く沿っていて、若いとはいえないモデルたちがしなやかに歩く。髪はみんなボブカッ卜か小さく後ろでまとめたシニョン。胸元には白い椿の造花、金のくさりのベルトや、色のガラスをはめ込んだ大きなブローチを勲章のように付けている。シャネルは椿の花を好んで使っていたが、デザイナーのトレードマークの走りといえるかもしれない。その頃、シャネルは頑固に自分のラインを変えないので、“オーソドックス”といわれていた。しかし、女の私、それも一〇年近くこの仕事をやってきた目から見ると、あれは「女のための服だ」と強く感じた。そして自分のために本物のシャネルスーツをオーダーしたいと思ったのである。いつも人に服をつくっていたので一度、自分もお客になってみたい。女のデザイナーが数えるほどしかいない時代に、シャネルの“着られる服”に興味が湧いた。二日ほどたって、私はまたこのリュー・ド カンボンのメゾンを訪ねたのである。