バスの虫

2012-01-15

唐突に、地を這うシャクトリムシのような顔が浮かんできた。久しぶりに見る顔だった。夜行バスの狭く、息苦しい車内に閉じ込められて数時間もたつと、必ずといっていいほど、この虫がニッと願いながら暗闇のなかに顔を見せるのだ。身動きひとつできないような車内では、満足に寝ることもできず、わずかなスペースのなかで、体を右に左に1センチ、ニセンチと動かし、少しでも腰への負担を軽くしようとする。しかしぎゅう詰めのバスのなかではその効果もほとんどなく、眠いのに眠ることができない濁った瞳で、暗い窓の外に目をやる。

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そこには目を楽しませてくれる風景ひとつなく、ただの暗闇だけが広がっている。そのなかにどこかとぼけた顔つきのバスの虫が見えるのだ。いつもこいつと一緒に旅をつづけてきた。頼りにもならず、ときに憎々しいその顔が、アジアの旅の道連れだった。